ぴろブロ

普段考えることをぶちまけています。意味はありません。

ラガーマン

2015年、夏。
都会を包む湿気と熱気にうんざりしつつ、僕は地下鉄に乗っていた。扉の脇に背を向けて立っていると、電車に乗り込む客の声が聞こえてきた。
「すみません通ります」
その声を聞いたのと同時に僕の体はタックルを受け、吹き飛ばされた。驚いて振り返ると声の主だった。

スーツを着た、30代くらいの男だった。
身体に脂は乗ってきているものの、その下には確かな筋肉という実績が蓄えられていた。
そのまま座席の方に消えてゆき、姿は確認できなくなってしまったが、僕にはその人の人生が手に取るようにわかる。

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2003年8月、この日に開催される全日本大学ラグビー選手権は、日本のラグビー人口さえ少ないが、それでもその大きなスタジアムを埋め尽くすほどの人で溢れかえっていた。
大学生活最後のトーナメント。
高校生から始まった自分のラグビー生活が今まさに極地を迎えている。
7年間、ラインとしてスクラムを組んで、来る日も来る日も筋肉とのぶつかり合いを重ねてきた。
スクラムの責任は重い。
崩れてしまったら、それでチームの攻撃は終わってしまう。
彼は人生の全てをぶつける意思を持って、ひたすら耐えた。耐えて耐えて、膝や腰、腕に限界が来た。それでも彼は耐えた。

しかし現実は無情なもので、結局彼のチームは初戦で敗退した。
その後すぐに部を引退して、氷河期と言われる就職活動に身を投じることになった。
今までの生活が嘘だったかのように過ぎ行く時間。
彼が罪の意識に囚われるには十分すぎる時間だ。
もちろんそのような迷いを抱えていては理想の社会人になれるわけもなく、最終的に彼は1社しか内定を得ることができなかった。
それも今で言われるブラック企業
彼は毎日奴隷のように扱き使われ、精神を病んでしまった。
しかし彼の中にあるラグビーへの思いは変わらない。
そのうち彼は、満員電車の人混みをあのスクラムに重ねるようになっていった。
俺のフィジカルはまだまだ現役と変わらない。
少し本気を出しただけで簡単に若者は吹き飛ばされる。
「辻タックル」はこうして、社会への憎悪とともに誕生した。
彼は純粋すぎるが故に道を誤ってしまったのだ。

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着地点が見えないので体育会系が好きそうなメニューナンバーワンを紹介して閉めようと思います。

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